東京高等裁判所 昭和29年(う)2599号 判決
被告人 渡辺丘
〔抄 録〕
論旨第二点(イ)。
刑法第二〇七条は二人以上のものが、共謀することなく、各自暴行を加えて人に傷害を被らせ、その傷害の軽重又はその加害者を知ることができないとき適用すべき規定であつて、二人以上の者が共謀して他人に暴行を加えたときは刑法第六〇条の共同正犯に関する規定によるべきであつて、刑法第二〇七条を適用すべきものでないことは云うまでもないところである。故に共謀による傷害の事実を認定し乍ら、刑法第六〇条の外に第二〇七条をも引用するならば、果して共謀による傷害なりや或は共謀によらない数人の同時傷害なりやが不明確となり、法令適用の誤となることは勿論である。
ところで、原判決がその認定した事実に対し刑法第二〇四条、第二〇七条の外なお第六〇条をも引用していることは所論のとおりである。
しかし、刑法第二〇七条は「二人以上ニテ暴行ヲ加ヘ人ヲ傷害シタル場合ニ於テ傷害ノ軽量ヲ知ルコト能ハズ又ハ其傷害ヲ生セシメタル者ヲ知ルコト能ハザルトキハ共同者ニ非ズト雖モ共犯ノ例ニ依ル」と規定されているのであるから、右第二〇七条を適用すべき場合には、この法条の外なお刑法第六〇条の規定を引用しても格別法令の適用の誤となるものとは解されない。むしろ右第六〇条を引用する方が、共犯の例によつた事を示すもので法令適用を明確にするものである。原判決には所論のような法令適用の誤は存しない。論旨は理由がない。